「課題は何ですか?」は悪い質問
PMヒアリングで地図を先に描く理由
2026/4/12
「課題は何ですか?」と聞いたとき、何が起きているか
ヒアリングの冒頭、こう聞いたことはないだろうか。
「御社の課題は何ですか?」
一見、まっとうな質問に見える。でもこれ、かなり相手に負荷をかけている。
クライアントは「課題」を言語化できていないことがほとんどだ。なんとなく困っている、なんとなくこういうものを作りたい——そのファジーな状態のまま打ち合わせに来ている。そこにいきなり「課題は?」と聞かれると、相手は考えながら答えを絞り出そうとする。その結果、出てくるのは「表面的な答え」だ。
表面的な答えをもとに提案すると、的外れになる。的外れな提案は手戻りを生む。手戻りはプロジェクトを殺す。
これは理屈の話ではなく、自分が何度も見てきた現実だ。
うまくいかなかったプロジェクトに共通していたこと
少し前、自分が直接担当したわけではない受託開発案件に、第三者として間に入ったことがある。「うまくいかないから助けてくれ」と、関係する二社から同時に頼まれた案件だった。正直に言うと、関わる前から嫌な予感がしていた。それでも断れない事情があって引き受けた。
プロジェクトに入ってまず確認したのは「なぜこの開発をするのか」だった。聞いてみると、既存システムのデータベースが自社管理ではなく、思い通りに動かせないという根本的な制約があることがわかった。であれば既存システムからの分離・独立が大前提、という合意をまず取り付けた。そこまでは良かった。
問題はその先だ。クライアントの責任者は「指示書に書いた通りに進めてくれ」というスタンスで、ヒアリングの場をほとんど作らせてもらえなかった。業務の現状フローを丁寧に確認する前に、開発が走り始めてしまった。
結果どうなったか。「もっとこうしてほしい」という後出しの要望が、終盤になって次々と出てきた。「それは最初の要件定義で決まっていた仕様ですよね」と確認しても、受け入れてもらえない。リカバリーに想定の倍以上の時間を使い、プロジェクト全体も倍以上延びた。
正しい順序は「現状の業務フロー」から始まる
このプロジェクトを振り返って改めて確信したのは、ヒアリングには「正しい順序」があるということだ。
①まず業務地図を描く
「今、どうやって仕事をしていますか?」から入る。誰が何をして、どこで情報が止まって、何が手間になっているか。これを一緒に可視化する。
②整理して合意する
描いた地図を相手に見せて、「こういう理解でいいですか?」と確認する。この工程で、クライアント自身が「そうか、ここが問題だったのか」と気づくことが多い。
③解決イメージを引き出す
地図と合意ができて初めて、「ではどうしたいですか?」を聞く。この段階で出てくる答えは、最初から聞いたときと全く質が違う。
「何が困っているか」を聞くより先に「今どうやっているか」を聞く。この順序を守るだけで、提案の精度は大きく変わる。
「数字を動かす」という発想がなぜ大事か
ここで一つ補足しておきたい。
クライアントが最初に口にするのは、たいてい「業務改善がしたい」「見える化したい」「もっと効率よくしたい」といったレベル感だ。それ自体は悪くない。でもそのままの粒度で開発を進めると、何を作っても「なんか違う」になりやすい。
なぜか。究極のところ、どの会社も利益を出すために動いている。業務改善も見える化も、突き詰めれば「何かの数字を良くしたい」という話のはずだ。受注件数なのか、対応時間なのか、離脱率なのか——何かの数字が動くから、投資する意味がある。
ところが実際のヒアリングでは、その「数字」の話になかなかならない。だから自分は意識的に「何を変えたいのか」「何が改善されたら成功と言えるか」を引き出すようにしている。これが共有できると、お互いが同じ地図を見ている状態になる。
細部は進めながら修正していい。現場の実態が責任者の認識と違うことも、走ってみて初めてわかることも多い。でも「同じ地図」さえ持っていれば、そのズレは修正で済む。地図がなければ、ズレは迷子になる。
なお、最初から課題が明確なクライアントに出会うこともある——ごく稀に、だが。そういう場合でも自分は「その課題、もう少し業務の実態から確認させてもらえますか?」と一歩引いて聞くようにしている。明確に見えても、現場との認識ズレが潜んでいることが多いからだ。
決断できない責任者、曖昧なまま走るプロジェクト...この話はまた別の記事で書くつもりだが、根っこは同じところにある。これも苦い経験がすごくある。
「質問の順序」は、相手への敬意でもある
ヒアリングの質は、質問の難しさより順序で決まる。
「課題は何ですか?」という問いが悪いのは、相手がまだ整理できていないものを、いきなり言語化させようとするからだ。それは相手に対して少し、不誠実だと思っている。
地図を先に描くのは、効率の話だけじゃない。「あなたの仕事の全体を、まず理解しようとしている」というメッセージでもある。それが信頼の土台になる。
次のヒアリングで試してほしいことを一つだけ挙げるとすれば、これだ。
最初の15分は「現状の業務フローを教えてください」だけにする。
課題を聞くのはその後でいい。地図ができてから聞けば、相手は驚くほど明確に答えてくれる。